雨宮蛍がオフィスから退社。
エレベーターまえには、部長と瀬乃がいた。
あれ？部長今日早いんすね。
いやこれから打ち合わせ。
え？そうなんですか？
何？
いや…。
エレベーター到着
夕ご飯どうしよっかな～。
そうだこの前雨宮さんにイベリコ豚おごったんですけど。
あっごちそうさまでした。
そしたらすっげ～嬉しそうにタッパー持参で持ち帰ったんですよ。
「オタカさんに食わしてやるんだ」って。
オタカさん？
あぁオタカさんって人と一緒に住んでるそうですよ。
それが何か口うるさい人らしくて。
もういいからそういう話。
何でだよ！
いいからもう！
何だよ！
何でって…。
ムキになんなよ何だよ。

縁側。ビールを飲むホタル
ア～！何食べよっかな～。
TVをつけると落語家の菊屋麺蔵が番組に出ている。見入るホタル。
結婚といえばですね…。
結婚前は両目をしっかり開けて見よ、結婚したらば片目をつぶって見よ
なんてことをいいますがね…。
私のところなんざぁもう片目をつぶるどころか、
耳も鼻も口もふさいでねやって行かなくちゃならない。なんてや～ね～。
ところでねそこで手をたたいて笑ってるお嬢さんね。
「え？私？」
あなただって結婚するとず～っと我慢しなくちゃいけない。
我慢できなきゃ結婚なんかできない。
「え？」
昔の人はうまいこといったもんですな堪忍袋。
これは我慢の袋が人間の心の中にあるってわけでして。
ところがね最近はその我慢の袋が小ちゃくなっちゃってちょいとしたことでも
すぐに堪忍袋の緒が切れてだから結婚できない人が増えてるってぇわけ。
「あらぁ！」
特に最近の女ども１つや２つの我慢ぐらいしてみやがれってんだ。
ねっそうでしょ？
「う～ん。」

ということで、今回のテーマは「我慢」
よし！と、いつものように習字で書いて貼る。
携帯に部長から電話。
はい。
口うるさいオタカさんです。
すいません瀬乃さんに余計なこといっちゃって。
夕飯は食ったか？
せんべいを１枚。
それは夕飯じゃない。
打ち合わせが終わったから沖縄料理の店に行こうと思う。
昨日オープンした後輩の店。これから出て来られるか？
デートですね！
小夏も一緒だ。
え？
よかったら君もどうかと彼女が。
・・・分かりました今すぐ行きます。

通り、待っている小夏が心配する。
大丈夫？
ああ。
よかった。
気使うことないのに。
ううん。２人きりで食事なんてやっぱり気が引けちゃう。
別に俺達やましい関係じゃないだろ。
今はね。あっ雨宮さん沖縄料理大丈夫かな？
あいつは何でも食うから。・・ちょっと待って。
再び電話する部長。
もしもし。沖縄料理の店だからといって沖縄の格好をする必要はないから。
え？そうなんですか？
すでに沖縄民族衣装を着ていたホタル。
普通でいいんだ普通で！このアホがさっさと来い！え？琉球踊り？
そんなもん披露する必要もない！

沖縄料理「美海」。小夏がホタルに話す。
お店を開く準備をしてたっていったでしょ？
はぁ。
当てにしてた物件が他で売り出されたことが分かって。
はぁ。
もう一度…。
俺が探すよ。不動産会社との交渉俺がやるから。
そこまで甘えるわけにはいかないわ。
あの不動産会社、君が女だからって甘く見てるんだよ。
そんなことないわよ。
あの～。今日…千夏ちゃんでしたっけ？
横浜のおばあちゃん家、時々預かってもらってるの。
あの子にはいろいろ我慢させちゃって。
我慢？
でも、仕方ないわ。新しい生活に向かおうとしてるんだもの。
千夏も私も多少の我慢は…。
分かります。私も叱られたんです。我慢しろって。
誰に？
テレビ。
またテレビと語り合ってたのか。
「１つや２つの我慢くらいしてみやがれ！」って。小夏さん頑張りましょう。
ええ、そうね…頑張りましょう。
乾杯！
乾杯。
店長がくる。
高野先輩！
おう。
今日は来ていただいて、ありがとうございます。これサービス。
ゴーヤチャンプルー、おいしいんですよね。
ああビールに合うよな。
ねぇ。
あの、私も好きですよゴーヤ。
ホント？
沖縄からどっさり届いたから持って行きます？と、店長
遠慮なくもらっちゃう？
もらっちゃいますか。
ありがとうございます。ありがとうございます。

高野家。居間。新聞紙に包まれた大量のゴーヤ。
こんなにもらっちゃいましたね、ゴーヤ。
あっちやってくれる？
え？
苦手なんだよゴーヤ。
でも「ビールに合う」って。
話を合わせただけだ。ホントは大嫌いなんだよ。
どうしても食べたいなら、私の見えない所で。
部長…。それならそうといってくださいよ。
大丈夫ですゴーヤなんて食べたくなんかありません。
いやゴーヤチャンプルーあんなに食ってたろ。
それは部長がゴーヤのこと好きだと思ったから。
じゃあアホ宮も。
嫌いです。ホントは大嫌いなんです。
アホ宮～。
部長！

このこの！この！この！あ～！
ゴーヤを叩いて捨てるホタルたち。
はぁ～よかった～。はぁ～よかった～。
じゃあ寝るか。おやすみ。
・・・
どうした？
いえ別に。
おやすみ。
おやすみなさい。

部屋に戻ったホタル。
寂しげに、「はぁ～。」と、ため息。

翌朝。
おはようございま～す。
おはよう。
おっ！どうした？その顔。
え？
部長に鏡で見せられたホタルの顔は湿疹だらけ。
あ！
アホ宮…。
ぶ…　部長！

表参道をほっかむりとサングラスして病院に向うホタル。
待ち行く人に笑われている。着いたのは皮膚科の北青山医院。

オフィスでは山田姐さんが部長から知らされた。
じんましん!?
ああ。
雨宮さんどうしたんですか？と竹林。
体調が優れないからしばらくお休みするって。
えぇ!?あの仕事熱心な人がっすか？
食べ過ぎたんじゃねえの？悪いもん食ったとかさなっ！
あっそうですよね。
部長が心配になる。

家では薬をもらったホタルが帰って来ていて、部長と電話で話してる。
食べ過ぎでも悪いもん食ったわけでもありません。
苦手なゴーヤを無理して食べたからじゃないのか？
食べ物じゃありません。原因は今調べてもらってるんですけど
心因性じんましんかもしれないって。
え!?

夜。オフィスの休憩所。部長と山田、二ツ木が話してる。
心因性？
精神的に何か負担がかかってることで発症する場合があるそうだ。
いや蛍は仕事のストレスためるようなコじゃないですよね。
だってどんなに仕事が大変でも家でまった～りすることでバランス取ってるでしょ？
ああ。
いや仕事じゃなくて、プライベートだよ。俺も経験あるからさ。
え何？じんましん出たの？
君と付き合い始めた頃にね。我慢することあってさ。
何よ？我慢って。
いや～まぁ、君とずっと一緒にいたいけど、終電だから我慢しようとか
君のことをね、もっと知りたいんだけどそれも怖いから、我慢しようとか。
フフっ！フフフ！フタちゃんフフフ…。フフフ…。
部長がアツアツの2人にせき払い。
あぁでも、蛍ならねそういうことあり得るかもね。
うん。ちゃんと優しくしてやってるか？
例えばあのお出かけする前とかさ、おやすみ前には必ず、チュ～するとかさ。
そういうたぐいのことはまだ。
まだ？え？
俺達健全な仲だから。
えぇ!?えぇ!?
いや…もう１回聞いていいか？
俺達、健全な仲だから。
えぇ～!?えぇ～!?
「人は４０代にして初めて真のプラトニックな恋愛を知る」とあのゲーテもいってる。
あのな！
知ってるだろ？俺の性格。
ここまで来たら結婚までは健全なカップルの道を全うしようかと。
バカップルだよそれ！
全然健全じゃないですよ。むしろ不健全ですよ。
思い合ってる男と女がひとつ屋根の下にいて、チュ～もまだって…。
あっそれかもしんない。
あっそうよ。蛍恋愛下手だから自分からチュ～がしたいなんていえなくて
我慢してるんじゃないですか？
チュ～がじんましんの原因？
あり得ますよ。ものすごいあり得ますよ。
あのコね、思い詰めるととことん思い詰めるコだから。
せめてさ、おやすみのチュ～くらいしろよ。
部長は昨夜寝る前に寂しそうな顔をしてたホタルを思い出す。

ホタルは「我慢」の字を見つめ、
病院で看護師や医師にに言われたことを思い出していた。
心因性じんましんかもよ。最近多いらしいわよ。
無理したり我慢したりすると体に出ちゃうコ。
あぁテレビでもいってたな。ちょいとの我慢もできやしねえ。
だから結婚できないコが増えてるって。
あ…あの大丈夫です。頑張ります！じゃあ失礼しま～す。

ん～！ん～！我慢。我慢！我慢！我慢！

部長が帰ってきた。
ただいま。
おかえりなさい！
大丈夫か？寝てなくて。どうだ？ちょっと見せてみろ。
ハッ！

縁側に座る二人。
薬が効いてるのか、だいぶ治まってるみたいだな。
そうですか？
原因に心当たりはあるのか？
あ…。
あるんだな？何か我慢してるとか。
・・・
そうなのか？

山田姐さんに蛍は恋愛下手だから自分からチュ～がしたいなんていえない
といわれたことを思い出す部長。

アホ宮、何を我慢してる？
いえません。
なぜ？
だって…。
なぜいえない？
だって…。
分かった。目を閉じろ。
え？
いいから閉じろ。

部長がキスしようとすると、ホタルは口を曲げて…。

な…何が始まった？
かゆいの！
かゆい!?
何か急にかゆくなっちゃって。でもかいちゃいけないから！
ああ…。
でもかゆくって。ん～かい～　かいぃ！あぁ！あぁ～かい～！
アホ…アホ宮。
かいかいかい…！
アホ宮！
かい～…！
アホ宮大丈夫か？
かい～かい～！
床に背中をこすり付けて転げまわるホタル。

翌日。二ツ木に報告する部長。
できなかった？
ああ。
チュ～なんて今どきの中学生だってできるぞ。
お前どっかおかしいんでないの？
俺に問題が？
そうだろ。男として終わってるなぁ。もう枯れちゃったのかな。
カンジ～ザイボ～ザ～ギョウジンハンニャ～ハ～ラ～ミ～タ～ジ～。
念仏を唱える二ツ木。

縁側ではホタルが瀬乃からの電話に出ていた。
瀬乃さん？どうしたんですか？
あんたの仕事こっちに回って来てさぁ。
『代官山ホテル』のソファの生地分かんねえんだけど。
あ…すいません。私のデスクにあります。
うんじゃあ探してみる。
分からなかったらまた連絡ください。
ＯＫ、お大事に～。
雨宮さん？と、美香が声をかける。
ああ結構元気そうな声だったな。
瀬乃さん、もう５時ですけど帰らないんですか？
これ終わらしてから。あいつがいねえと仕事はかどるんだよなぁ。
あれ？つうかどこにあんだよ。
複雑な表情の美香。

部長は小夏と店舗の物件に来ていた。
知り合いが持ってる物件なんだ。君が希望する条件に合うよう俺が交渉するよ。
悪くないと思うけど。あれ？気に入らない？
そうじゃなくて、どうしてあなたが？
探すっていったろ。
だから、あなたにそこまで甘えるつもりはないの。
あなたにはお店のプランのことで相談に…。
物件を探すところから店づくりは始まってる。
そんなこと分かってる。
まぁ駅前に限定せず隠れ家的な場所も…。
あなたのお店じゃないのよ。
そんなの分かってるよ。
分かってない。そりゃ相談に乗ってもらったり、
力を借りることはあるけど、できる限り自分でやらなきゃって思ってるの。
強くなりたいのよ、私は。あなたと付き合ってた頃の私とは違うの。
ごめん…大人げなかった。せっかく探してくれたのに。
ごめん…貸して。見てみる。そうね、確かに悪くないかも。

部長はこう思った。
彼女と付き合ってたあの若かりし頃、チュ～なんて簡単にできた。
あんなこともこんなこともできた。今は…
二ツ木から男として終わってるなぁと言われる始末。
いや…今もできる。こういう女性とならできる。できそう。絶対にできる。

何見てるの？
あ…いや…。

夜。オフィスに残ってる瀬乃のところにホタルが来た。
すいません。私カギ持ち帰ってて。
そうだよまったく。つうか俺が取りに行ってもよかったんだけど。
いえ、どうせゴロゴロしてたから。

ソファーのデザインプランを瀬乃に渡すホタル。
はいこれです。
はい。
すいませんでした。
いいえ～。あれ？じんましんだっけ？平気そうじゃん。
でもまだちょっとかゆいの。
じゃさっさと帰って。

ホタルの携帯に部長から電話
はい。もしもし。
あれ？生地サンプルないよ。
え？一番下にないですか？
どれよ？
今の瀬乃？
はい会社にいるんです。
え？
パパ～！
今の千夏ちゃん？
ああ。この前の沖縄料理の店。
千夏ちゃんもゴーヤが好きで、どうしても食べたいという話になって
今日は小夏と３人で。
そんな…。
だから、少し遅くなる。
遅くなる？私に我慢させといて？
アホ宮…。
いいですよ。私は１人で。
体が痒くなるホタル。
もしもし。
ん～もういいです！じゃあ！
電話を切ったホタル。
あ…。雨宮…。

当然、瀬乃が今の電話のことを聞いてきます。
何？今の電話、誰？
オタカさん。
あぁ一緒に住んでる…。オタカさんって男？女？
男。
男。そういう人いたんだ。
もう我慢できない。
え？
我慢できないの。私…。
雨宮？
私、帰る！ごめん。失礼します！

急いで家に帰るホタル。
う～ん！う～ん！我慢できない！我慢できない！
我慢できない！我慢できない！我慢できない！我慢できない！
我慢できない！我慢できない！我慢できない！我慢できない！
も～！！我慢できない～！

沖縄料理「美海」
小夏が心配する
我慢？何を我慢させてるの？
いや、何って…。
とにかくじんましんが出るなんてよっぽどだわ。急いで。
パパ～。
パパは大切な人が待ってるの。
ごめんな千夏ちゃん。また今度な。
あなたは言葉足らずなところがあるから。
家に帰ってギュ～っと抱き締めてチュ～でもなさい。
じゃあ。
じゃあ。
ママ…寂しそう。
えっ？そんなことない。そんなんじゃないもの。
さぁゴーヤチャンプルー食べよ食べよう！

部長は店を出るとホタルに電話したが留守電。
アホ宮・・。

そのころ、家ではホタルが怒りながらゴーヤで大量のチャンプルーを作っていた。
やっぱゴーヤだよ！
まったく。何が３人で沖縄料理よ！
何が千夏ちゃんもゴーヤが好きよ！
こっちはじんましんが出るほどゴーヤが食べたいのを我慢したっていうのに！
もう我慢できないからね！食ってやるゴーヤ！死ぬほど食ってやる！

縁側でビール片手に、
いためたフライパンのままゴーヤを食べてるホタル。
おいし～い！うまい！やっぱビールにゴーヤは最高～！

そこに部長が帰ってきた。
「アホ宮！帰ってるんだろ？アホ宮！」

ホタルはフライパンを持って庭の隅に隠れた。
はやくゴーヤを食べきらなければと、口に一杯詰め込んで…。

アホ宮！アホ宮！アホ宮…。
ホタルの部屋の「我慢」の字を見てはっとする部長。

縁側にきた部長は、庭にしゃがんで背中を見せてるホタルを見つけた。
アホ宮。そんな所に…。
君のこと、何でも分かってるつもりでいたが、山田にいわれたよ。
君が恋愛下手で自分からチュ～を言い出せず我慢してるんじゃないかと…。
口に一杯ゴーヤを入れながら、？？？のホタル。
小夏からも、あなたは言葉足らずなところがあるからといわれ
いや考えてみれば君に結婚の意思は表明したものの
きちんと思いを伝えることはしてなかった。
アホ宮、俺は君のアホなところも全部まとめて好きだから。
君のことが好きだ。
驚いてゴーヤを戻すホタル。
好きだよ。おいで。
どうしたらいいか分からず、とにかくゴーヤを食べきろうとするホタル。
アホ宮？
う…うっうぅ…。
ゴーヤが喉に詰まるホタル。
泣いてるのか？
飲み込んだホタル。
アホ宮…。アホ宮！
感極まって、駆け寄った部長だが…。
何やってる。
あっあの…。
何を食ってやがる。
ゴ…ゴーヤ。食べたいの我慢してて、すごく我慢しちゃって…それで…。
それで心因性じんましん！？
それで…心因性じんましん…？
貴様～！！
すいませ～ん！
立ち上がったときに、フライパンのゴーヤが部長の顔に！！
アホ宮～！！

怒りながらシャツを洗濯機に放り込む部長。
大体何だよ？家で寝てるはずの君がなぜ会社で瀬乃と会ってる？
仕事のことで呼ばれてたんです。
こっちは心配してるというのに。
部長も沖縄料理行ったじゃないですか。小夏さんと。
２人きりじゃない。
２人っきりじゃなくても、私のこと心配なら
ゴーヤがあるとこなんか行かないでくださいよ。
こっちはゴーヤを我慢してたのに。
なぜそのまま我慢できない。そもそもそんなことでじんましんが出るのか？
私にとっては「そんなこと」じゃありません。食べたいものを我慢したんですよ。
その程度の我慢なら誰だって…。
私はありません。
ない？今まで我慢したことないのか？
好きな人のために食べたいと思ったものを我慢したのは初めてです。
辛かった～。死ぬかと思いました。
たかがゴーヤだろ。
たかがゴーヤ！？部長にゴーヤの何が分かるんですか。
分かりたくないよゴーヤのことなんか。
あんなにおいしいのに！
あんな苦いものは人間の食うものとは思えない。
ゴーヤのことをそんなふうにいうなんて！
君はゴーヤをかばうのか!?
ゴーヤは悪くありません！
悪いのはゴーヤを食べられない部長のほうじゃないですか！
ゴーヤは体にもいいし夏バテにもいいんですよ！
部長もゴーヤを食べてみてくださいよ！
私のこと好きなら、私の大好きなゴーヤを食べれるようになってくださいよ！
好きじゃないもん。
私のこと「好きだ」って…。
さっきは好きだったけど。
今は好きじゃないの？
大嫌いなゴーヤを大好きだという君のことを
好きでいられるかどうかは現在のところ不明。
そんな！たかがゴーヤじゃないですか！
たかがゴーヤなら我慢すればいいだろう。
できません！
ずっと一緒にいるなら我慢することも必要だろ？
私には我慢できません！
だったら一生ゴーヤ食ってろ！私の見えない所で！
一生食ってます！部長の見えない所で！
私はゴーヤなしでは生きて行けませんから！

ホタルは荷物をまとめて家を飛び出した。
「さよなら！」

家の前で背中に物音を感じたホタルが立ち止まる。
でも振り返ると、部長ではなく、ニャンコだった。

部長に止めて欲しかったけど諦めたホタルは町を歩き…。
交差点まちの通行人が見ていたワンセグがきになり見せてもらう。
それはあの落語家菊屋麺蔵離婚のニュースだった。
「落語家の菊屋麺蔵さんが電撃離婚しました。
　麺蔵さんどうして離婚されたんですか？
　離婚の理由？
　夫のために我慢できないような女房と一緒に暮らせるかってんだよ
　な？そうだろ？」
ずっと一緒にいるなら我慢することも必要だと部長にいわれたことを思い出す。
振り返ると、ウエディングドレスのショーウィンドウ。

落ち込んだままホタルがたどり着いたのは山田姐さんのマンション。
おそろいのTシャツを着た二ツ木も一緒だった。
そう。原因はゴーヤだったの。
二ツ木がふきだす。
笑うとこじゃないわよ！
あ…いいですよ、笑っても。
分かってるんです。ひとからすればくだらないことだって。
くだらないことでさ、言い合っちゃうのが付き合ってるってことでしょ。
映画やドラマは思いが叶って終わりだけど。
現実は思いが叶ってからが大変なんだから。はい。特に結婚ってなるとね。
えっ大変？
大変よ。食べ物の好き嫌いから始まって
趣味とかセンスとか価値観が違うのを我慢しなきゃいけないのよ。
君も何か我慢してんの？
鳥肌が立ってます。
私だってね、心因性じんましんができそうなほど我慢してるわよ！
え～何だろう？何だろう？一体。
このＴシャツに決まってるでしょ！
えぇ？
私も山田ねえさんにしてはどうかと…。
どうかと思うでしょ!?
私だって生きて来てこんなふざけたＴシャツ着たことないわよ！
でもね、この人が夢だったっていうの。
おそろいのＴシャツを着て、『風の谷のナウシカ』を見るのが夢だったっていうから！
俺のために我慢してたんだ。
我慢したわよ。好きだから。
我慢してやってるわよ！山田ねえさん、もう。
「ねえさん」はやめて。
山田～！
呼び捨てもイヤ！
あはは！二ツ木！一撃で吹っ飛ばされた！
もう！
そっか…。山田ねえさんも、我慢してることあるんですね。
誰だってそうよ。誰かのことを好きになって、
一生懸命付き合ったことがある人なら、蛍の気持分かるわよ。
好きな人のために、一生懸命我慢しようと頑張った。
蛍の気持、よ～く分かるわよ。
でも、うまく行かなくて…。
それは仕方ないわよ。
思ってたよりさ、我慢の度合いが大きかったってことなんだから。
私もう一度頑張ってみます。ゴーヤ食べること我慢してみます。
部長と、ずっと、ずっと一緒にいたいから。
蛍。
我慢します！

翌日、山田姐さんは部長に報告。
蛍はしばらく家で預かります。頭を冷やしたほうがいいと思うので。誰かさんが。
何もいえない部長。

ホタルは出勤していた。
雨宮先輩もう大丈夫なんですか？
うん。ごめんね心配かけて。
あっ私よりも瀬乃さんのほうが気にしてましたよ。
はぁ？してねえし。
雨宮さんの快気祝いを兼ねてみんなで飲みに行きません？
いいねぇ！部長の後輩がやってる店なんかどう？
ほらこないだオープンした沖縄料理の店。
でも、私、ゴーヤとかダメなんで…。
え？
それにまだ体調も万全じゃないし、飲み会はちょっと…。
あっ私抜きでも皆さんで楽しんで来てください。
そうっすか？よっしゃ！じゃあたまにはみんなで行くか！

山田姐さんのマンション。ホタルの携帯に着信。
井崎さんからだ。あっゴーヤ！イヤ！
何？どこにゴーヤ？あ…。
ダメだ。もう寝ていいですか？
え？
起きてるとゴーヤのことで頭がいっぱいになっちゃう！
蛍？

しばらくして二ツ木がきた。
寝ちゃった？まだこんな時間なのに？
そうなのよ。うなされてる。
ゴーヤ…　う～ん…。
はぁ・・。部長、どうするつもりなのかしらね？
う～ん…

そのころ部長はマスクにゴーグルして、ゴーヤチャンプルーを作っていた。
鼻に洗濯バサミして食べる部長。
はぁ…いただきます。うっ…うっ…！
やっぱり戻した。

そこに二ツ木が材料もってやってきた。
来たよ～。
どうして？
え？お前が俺のこと呼んでるような気してさ。
呼んでないよ。
何年お前と付き合ってると思ってんだよあ～ハハっ。こんなんじゃ食えんだろう。
俺がさ、お前でも食うことのできるゴーヤのレシピ考えて来たから。
二ツ木。
手伝うよ。

ホタルはまだベッドでのたうち回ってる。
う～…ゴーヤ…。
眠れないの？
夢にゴーヤが出て来ちゃって。泣いてるんですゴーヤが
「食べて食べて」って。

ホタルにメールの受信音。
メール鳴ってる。部長かもよ。
飛び起きたホタルだったが、
そのメールは井崎から2次会のボーリングの誘いだった。
今度はボウリングだって…。
蛍も行ってくればいいじゃない。ボウリングならゴーヤと全然関係ないしさ。
思いっきり汗をかいて忘れるっていうのもひとつの手よ。
忘れる…？
うん。頭の中がゴーヤでいっぱいなんでしょ～？
私もね、頭の中がフラれた男でいっぱいになった時は
ジムに行ったり打ちっぱなしに行ったりして忘れたもんよ。

「私が相手になるわ！」
ということでボーリングに合流したホタル。
雨宮。
雨宮先輩。
大丈夫なのかよ？
大丈夫。さぁ勝負しましょう！

部長の家では二ツ木がゴーヤ卵焼きを食べさせる。
うっ…。　だめだった。

ボーリング場。
ホタルはピンがゴーヤに見えていた。そしてガター。
心が曲がってるとボールまで曲がるのね。
どけほれ。シッシッシッ。
ホタルと組んだ瀬乃は、2投目担当。見事にスペアをとる。
体調万全じゃないならやめとけば？
ううん。このままじゃ私、結婚できない。
結婚？もしかしてオタカさんって奴と？
私、頑張りたいの。
ふ～ん。いいんじゃん別に頑張れば。
つうかそれとボウリングとどんな関係が？
この勝負に勝つことで、乗り越えられるような気がするの。
フッまた訳分かんねえこといって…。
やるわよ私は。

2フレーム目。
ゴーヤなんて…　えい！ダメだ。
3フレーム目。
ゴーヤなんて！　ダメだ
4フレーム目。
ゴーヤなんて！ダメダメだ！
５、６、７、８、９、１０フレーム目、全てガター。
はぁ…はぁ…。

部長のほうは目の前に並んだたくさんのゴーヤ料理に・・
もうダメ…と、諦めかけていた。
そ、二ツ木が、「これが最後のメニューだ」と。
カレー？
ゴーヤカレー。
どこだ？ゴーヤ！
探すな。ゴーヤのことを考えるな。彼女のことだけ考えろ。
見ないで食べる部長。
あっゴーヤのっかってる。
チッいうなよ！もう。
でも食べた！

ボーリング場
井崎・松小路ペアは108で終了。
ホタル・瀬乃ペアは、ガター・スペアを10フレまで続け、
ホタルの最終投球が9本以上なら逆転だった。

まだまだぁ！ほら最後だぞ。
またダメかもしんない…。
頑張んじゃねえのかよ？よく分かんねえけどオタカさんって奴と結婚してえんだろ？
そう。ここで勝たなきゃ…。打ち勝たなきゃ！

ゴーヤなんて～!!
放った球は、ゴーヤを見事に全部倒しストライク！

やった…。
やったじゃん！すげぇよ！
悔しがる井崎。
よかった。
よかったな。ほれ。
タオルをかける瀬乃。
ありがと。
それを見ていた美香は、真菜に「私負けたくないな」とつぶやく。
え？
雨宮先輩だけには負けたくない。

ホタルは思った。
これで大丈夫。もうゴーヤのことなんて

残念だったね豪也！
惜しかったね豪也君

松小路…ゴーヤ君…
振り返ると、ピンがまだゴーヤに見えていた。
ダメだ。忘れたと思ったのに！

山田姐さんの家に帰って来て、また顔が痒いホタル。
ダメでした。まだゴーヤのこと…我慢できるかどうか…。
山田姐さんは、ホタルの荷物をまとめて現れる。
いいのいいの。はい！時間だから。
時間って？
とにかくね、帰りなさい。
はぁ。

帰り道の途中、ホタルを部長が待っていた。
部長？
部長だ。
迎えに来てくれたんですか？
ああ。
でも、私まだゴーヤのことは完全には…。
聞いてないのか？大嫌いなゴーヤを大好きだという君のことを
好きでいられる可能性が出て来た。
え？
今日の献立は、ゴーヤカレーだ。
部長、ゴーヤ食べられるようになったんですか？
ああ、すさまじい格闘の末。
私のために？
じんましんのため。
私のために、部長がゴーヤを？
じんましんのためだ！
嬉しいです！すっごく嬉しいです！ありがとうございます！
くだらないことでムキになって悪かったな。貸せほら。
ありがとうございます！
よかった！ホントによかった！部長！部長！
この勢いでやっちゃってもいいですよ。
何を？
私が我慢してたのはチュ～だと思ったんでしょ？
ああ。
やっちゃいますか？チュ～ねぇねぇチュ～チュ～！
うっさいなぁ、やるぞ本気で！
え？本気って？
真顔で近づいてくる部長。
あわわ。あわわ…。
でも着信音が邪魔をする～
わわ！すいません！病院からだ。
もしもし。

お医者さん曰く…
大学病院から検査結果が届いたよ。じんましんの原因は猫のダニだね。
猫のダニ？

家に帰ってきた2人。ホタルの部屋からニャンコが出てゆく。
窓開けっぱなし！布団敷きっぱなし！
そうかそれでニャンコが入って来て…。
私の布団に、ダニが…。
なるほど～。なるほど～。
ゴーヤは関係なかったか。
でもそのおかげで部長はゴーヤを食べれるようになってひとつ成長できましたね。
うん。…じゃないだろ！何が心因性だよ！さっさとダニ退治しろこのダニ女！
すいませ～ん！

翌日、カフェで会っていた瀬乃と美香。
オタカさん？
一緒に住んでる奴と結婚を考えてるみたい。
雨宮先輩が結婚…。
何かそんなふうに見えねえよな。
ショックですよね。
何で俺が？映画見んだろ？何にする？
ねぇどんな人か雨宮先輩ん家行ってみません？
はぁ？
行きましょうよ！

そのころ、ホタルは干した布団を叩いていた。
とりゃ！とりゃ！とりゃ！
叩くんじゃない！これ（掃除機）で吸え。
ハッ！

門の前には美香たちが…。
あっ、ここここ！ここですよ！
表札には「高野」

ホタルは一服のビールを飲もうと、部長と縁側に。
あ～！よく働いた～！
布団干しただけだろ。
ヘヘっ！
乾杯！乾杯。

と、玄関をノックする音と主に、
こんにちは～！と美香の声
あの～雨宮先輩のお宅ですよね？桜木ですけど！
瀬乃ですけど～。こんにちは～！
口からふきだしたビールをお互いの顔にかけあうホタルと部長。